幸せ探しの部屋

「こんにちは～！」、明るい声は日増しに弾みすら増していきます。今までの担当者と違って武藤さんの心も相当開いたのだそうです。心が弾めば仕事も楽しくなる。楽しい中に信頼関係が生まれる。多少の無理も聞いてくれるようになる。
そして何より武藤さんご夫妻には数えきれないほどのいろんなお話を伺いました。全国食べ歩き会の会長だった武藤愛三郎さん。私を実の息子のように接してもくださいました。
挨拶には本当にいろんな挨拶があって特に相手の心を動かすほどの挨拶が実際にあるということも後に知りました。名古屋の老舗にはこうした経験の後に入社しましたからまさにその張り切りようは凄かったですね。
当時は恋愛ということよりも一歩一歩歩いている毎日の仕事を覚えることに情熱を傾けていましたから、「嫁さんを紹介したいね～」のお話は全て笑い話に終わりました。
私が決めた人生設計はいろんなことに挑戦したいと出来るだけ多くの職場を渡り歩くことでした。おそらく普通の人よりは多くの事業所にお世話になった方だと思います。理由は自分に何が合うのかという適正を掴み切れていなかったことです。
武藤さん老夫婦との縁側はいろんなことを学べる場となりました。特別堅苦しい話をするのではなく、毎日仕立ての打合せやお願いに行っている短時間の積み重ねですから好意や愛情を頂く中で知ることの出来た経験や体験です。人当たりの良いおばあちゃんの話は世間話でしかないのにひと言ひと言に「挨拶」というくくりの中で味わう素晴らしい財産を得た喜びでいっぱいでした。
親子であれ、友達であれ、勿論恋人や夫婦であっても、人としての挨拶の在り方は勉強になることばかり。武藤さんの奥さんに対する語りかけ、旦那さんに対する語りかけ、「はいお父さんお茶ですよ」「おお！ありがとう」とキャッチボールが見えました。おお！と言ってありがとうが付きます。
私は15年ほどしてその後武藤さん宅を訪ねたことがありました。旦那さんは自宅のベットで寝たきり。すっかり老けこんでしまった奥さんはずっとベットに寄り添っての毎日だそうですがお二人の静かな笑顔は健在でした。
お世話になったこと、勉強になったこと、どんなにか役に立ったか等の武藤さんとの出会いを心から感謝しました。「いつまでもお元気でいてくださいね」と心からご挨拶できたのも全て武藤さんのお陰です。
それから３年後ご主人が、翌年奥さんは旦那さんを追いかけるように逝ってしまいました。(つづく)

■　人名、会社名等(著名人は除く)は仮名ですが内容は全てノンフィクションです。
■　【俊介の部屋】は平成21年6月4日にスタートしました。（毎日掲載しています）