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 素晴らしい秋 2

全国様々な所に平家の落武者が移り住んだといわれる村がある。京の都から山道を走ると大原の里があるがそこにある寂光院もそのひとつだと聞いた。確かによくこんなところを探したものだと思われるほど山奥にある。近くに三千院があるので訪れた人も多いと思うがその寂光院は数年前に放火されて全てが燃え尽きてしまったという。
寂光院ほどではないが越後新潟の山地にも秋山郷という落武者が移り住んだ部落がある。秋晴れの空の下、恋人と一緒に秘境ともいえるその渓谷を目指した。
それでも車だとあっという間に秘境にでもなんでも到着してしまう。山あいと言いやはりどこか大原の里に似ていなくもない。そして共通しているのが紅葉の美しさだ。
夢中でその美しさに酔っていった。すっかり稲刈りは済んで遠くには籾を焼く煙が立ち上っている。ポカポカと暖かい陽ざしとともに話しは弾む。青春真っただ中だった。
夏ならまだ真昼のような感じなのに秋も深まると冷え込みも早い。確か4時少し前だったと思うが突然霧のようなものが私たちを覆い始めた。渓谷の終点までは相当細い道を走ったのでとんでもないことが待っていた。霧で道が見えないのだ。少しずつ車を走らせようにも1m前が見えない。仕方がないので運転席のドアーを開けて道路の端に視線を置くことで道路巾を押さえた。当然歩いた方が早い速度だ。
仙人が出てもおかしくないところに居る訳だから何故か恐怖のようなものも感じる。こんな状況だから対向車がスピード出してすれ違うなんて心配はないがまるで別世界だ。
あれだけ素晴らしい天気だったのに一変だ! 2時間ほどそんな状態が続きやっと里に下りることが出来た。当時のことは今でも覚えているがよく崖から落ちなかったと不思議なくらい。
一体どうなってしまうんだろうと心配や恐怖のあの時間。当然道路も整備されていない頃だっただけにドラマでも描けないほどの経験だった。
国道に出るまでは全部砂利道だったので余計凄い体験になってしまった。素晴らしい秋を楽しませてあげようなんて考えた私は彼女の前で必死の状況を2時間近くも見せることになった。
自然が織りなす素晴らしさも格別だが落武者がどんなところに逃げ込んだのかを改めて教えられたような気がしたことも懐かしい。
どんどん観光地化をされているがおそらくそうした秘境にも似た集落はまだ日本には沢山あるように思う。
今になって思えば、最高の秋を満喫できた素晴らしい思い出だ。

 人名、会社名等(著名人は除く)は仮名ですが内容は全てノンフィクションです。
 【俊介の部屋】は平成21年6月4日にスタートしました。(毎日掲載しています)
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