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  母は一本杉で泣いていた Ⅱ

・ 頭の中は早く相手の女性に会いたい・・・! どんな人だろう!と落ち着か
 ない様子が子供の私にも伝わってきた。 障子の穴はすでに相当大きくなって
 いた。 男性が来て20分くらいしてからだったと思う。
 「こんばんは・・・!」と女の人の声が響いた。  さあ来たぞ! 興奮して
 いるのはこっちの方だ。 「あっ!この女の人知ってる。魚政で働いている人
 だ」。 人なつっこそうでちょっと可愛いくてぽっちゃりしてて・・・。
 「さあさあこちらにいらっしゃい」と母に促され向かい合ってこたつに座った。
  母がそれぞれを紹介してお茶を入れ替えた。 すぐに事件は起きた。
 「旦那さん!俺、この女性(ひと)気に入った・・・」??? ガ~ン!
 父も母もびっくりするやら相当焦った。 それより相手の女性はどんな気持ち
 だったんだろう・・・。 今でも聞いてみたい気もする。
  きっと女性の可愛らしさに相当参ったんだろう。 まだ何も話していない第
 一声だったから私たちでさえ氷つくほどだった。
 こういう面白さは子供にも伝わるもんなのだ。 「まあまあそう慌てないで」、
 私はそこまでしか記憶がない。 その後おかしい中にも楽しい雰囲気で変なお
 見合いは終了した。  二人が帰って両親の大笑いが止まなかった。
  1週間くらいして女性から母に断りの訪問があったそうだ。 「いい人なの
 に・・・、やっぱり第一声で勘違いされたんじゃない?」。
 そうは言ってもこれこそジャンジャンだ。 女性と接したことのない結末だっ
 たのかも知れない。 
  ところがそれからが凄かった。 つまり父と母はそれぞれの説得に当たった
 のだ。 母は女性に、父は男性に。  二人は別々に私の家でそれぞれ相手の
 話と結婚とはみたいな話を聞かされていた。  決して無理強いする両親では
 ないけど見合いの日の勘違いだけは説きたかったようだ。
  母が一本杉で泣いていたからの話は聞けなかったが、子供ながらに温かい話
 がいっぱい聞けたように思う。 今考えると「相手の良さにふれて!」という
 ような話だったのだろう。
  翌年の秋ころだったと思う。 二人は結婚式を迎えた。 仲人を引き受けた
 我が家もお祝いムードで笑顔が溢れていた。
 「凄い!あの二人は結婚するんだ・・・」。 良かったね!
  一大事が起きることも知らずにその日が迎えられたのだから凄いのひと言だ。
                                (つづく)
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岡部俊雄

管理人 : 岡部俊雄
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